『独裁者』感想:チャップリンのスピーチ 本当の凄さ

チャップリンで好きな作品をひとつ、と言われれば私は『サーカス』です。

忘れもしない小学校5年生の正月にNHKで放送していたのを見て、お腹を抱えて笑い転げたのを鮮明に覚えています。初めて観たチャップリン映画でした。
好きじゃない作品をひとつ、と言われれば「独裁者」と答えます。ラストの演説が嫌いだからです。
「テーマをそのままセリフにしてしゃべってはいけない」
脚本指南書なんかでよく聞く注意点ですよね。これをチャップリンはやってしまっています。テーマをよどみなく喋る。自分に酔っているようにも見えます。”映画史上最高のスピーチ!”なんて言われてるけど全然映画的じゃないよ。チャップリンも初のトーキーだとやっぱり言いたいことを喋らせちゃうんだな、サイレントとトーキーの才能は全く別なのかもな、なんて思ってました。

きちんと「独裁者」を鑑賞するまでは。

これまたNHK BSプレミアムで『独裁者』放送すると知って、チャップリンにダメ出しでもしてやろうか、なんて考えで観て、完膚なきまでに打ちのめされてしまいました。
テレビなんかで特集される箇所だけで判断してました。
偉そうに、分かったようなことを言って、チャップリン様、本当に申し訳ございませんでした。

最後のスピーチの部分、私はずっとチャップリンがスピーチしてるんだと思ってました。
あれ、ヒトラーが喋ってるんですよね。
ヒトラーが「白人も、黒人も、ユダヤ人も、みんな一つになって助けあおう」と世界中に訴えてるんです。
なんという、ものすごい皮肉。チャップリンが一流の皮肉屋だったことを忘れていました。
同時に、ひとりの愛する女性への想いも入っています。一流の演出。
オッサンになるまで『独裁者』をバカにしてた自分を反省しきりです。

今は『サーカス』と同じくらい『独裁者』が好きです。
食わず嫌いで損をしたのは他に『平成狸合戦ぽんぽこ』とかたくさんありますが、またの機会に。

『独裁者』、ラストのスピーチだけじゃなく全編すごかったですね。ポーレット・ゴダードの美しさは言うに及ばず。
特にオープニング!冒頭から長回し(本当は上手にディゾルブしてますが)での戦場の見せ方からチャップリン登場までの上手さ。
そしてドリフのコント!ドリフはこの映画からたくさんパクってたんですね。トーキー始めてすぐに”意味不明の言語”なんていう音を使ったギャグを入れてくる天才っぷり。

チャップリンは映画の面白さを生み出す手段を全て手中に収めていた、映画の独裁者だったのですね。

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